2017年のベスト美術展を振り返る

白いシクラメンが咲いていた

去年の話だしなるべく早く、と思いつつ、絞りきれなくて時間がかかってしまった。いろいろとメモをしたはずなのに、デジタルメモのうちけっこうな数がどこかに行ってしまった、悲しい。そして言葉にされなかった記憶は、ゆっくりと風化する。

美術館で行われた有料企画展のみを対象に、順位はつけずに、それぞれ部門別のベストをなんとなく好きな順に列記しただけだけだけれど、それでも、1箇所にまとめた意義はあると思う。自分史的な意味で。というか正確には思いたい、かな。

なかで、茶碗の宇宙とジャコメッティの記憶が飛び抜けて鮮やかだ。キュレーションは良いに越したことはないんだけど、自分の場合、結局は出会った作品の持つ力のほうが重要だ。だから、テーマ展よりも、作家の顔がはっきりしている回顧展のほうが印象が強い。とはいえ、テーマ展示も、知らない作家に出会える楽しみがあって外せないんだけれど。

日本美術

茶碗の宇宙 樂家一子相伝の芸術 東京近代美術館 初代長次郎の土そのもののような椀の朴訥とした存在感。光悦の抽象絵画作品のような椀の精神性は、工芸ではなくて美術だ。椀にはいった茶を飲むとき、目の前の視界は失せ、意識は椀の触感と茶の味の宇宙のなかに浮かぶんだろう。羨ましい。東博の《茶の湯展》でも素晴らしい椀が見られたけれど、東近美らしいテーマを絞り込んだキュレーションのためか、こちらの方が印象がずっと強い。
熊谷守一 東京近代美術館 今となっては、熊谷守一を素朴だなんて言えないのだ。
絵巻マニア列伝サントリー美術館 高階隆兼の絵巻《春日権現験記絵》が白眉。逆に言えば、ほかの作品の記憶はかなりぼんやりしているのだけれど。シンプルな線で描かれた人物、ひとりひとりからそれぞれの人生が伝わってくるほど、信じられないほどに生き生きしている。類型化と程遠い群像に圧倒された。
運慶 東京国立博物館 運慶ファンなんだけれど、この企画展の位置がこんなに低いのは、見たことのある作品がほとんどだったから。そりゃそうか。でも、やはりすごい。また奈良に行きたい。私が京都よりも奈良のほうがどうしても好きなのは、運慶の力が大きい。あと鹿と飛鳥の石造物。
雪村 東京藝術大学美術館 副題は奇想の画家、まさに。ファンタジーの世界にどっぷり。

西洋美術

ジャコメッティ国立新美術館 樂と並んで2017年のベスト。ただただ素晴らしかった。一時ジャコメッティの塑像は、信じられないほど小さくなる。それは作家とモデルの心の距離なのだ。
クラーナハ国立西洋美術館 昔からクラーナハの絵にある一種の、「クセになるアク」みたいなものが好きで、欧州でもかなり数を見ているのだけれど、まとめて見ることで、独特の不思議な抽象世界など、気がついた点もあって面白かった。さすが西洋美術館、なかなか良い作品が来ていたし。クラーナハ(父)の《ホロフェルネスの首を持つユディト》は、もう一度ウィーンで再会することに。「お主も悪よのう」とか言いたくなる作品。
アルチンボルド国立西洋美術館 素晴らしい、とか感動する、とかいう類の作品ではないものの、歌川国芳の寄せ絵↓を持ち出すまでもなく、日本人好みのアルチンボルド。代表作が一堂に会するとのことで楽しみにしていた。代表作《四季》連作が素晴らしかった。こちらもミュンヘンとウィーンで再会。今年は再会が多いな。CGのなんちゃってアルチンボルドも面白い工夫。最近多いSNS対策ですかね?

現代美術

草間彌生 わが永遠の魂展 最近は作品よりもご本人のお顔のインパクトの方が強いが、個人的にピークだと思っている、YELLOW TREEあたりの作品を久しぶりにまとまった数見て、やはりこの人は凄い美術家だなあと思った。個人的には、女性らしい繊細さや、どこか清らかさを感じさせる、初期の大画面のタブローもすごく好きだ。
N.S.ハルシャ展 森美術館 インドっぽいアコースティックな手触りのせいで、一見現代美術の文脈とはちょっと外れたところで活動しているように見えて、そうではない。それは現代に生きる人間が生まれた土地の伝統とつながりを失ってはいないというだけのことなのだ。
装飾は流転する Decoration never dies, anyway 庭園美術館 記憶にあたらしい企画展。今の時代を感じて、楽しかった。

単色のリズム 韓国の抽象 こちらも最近。繊細さと美。静けさと精神性。ある年輩男性が、「美術は美しくなければいけない」と断言していて、私は黙っていた。同意しないけれども、そういう考え方もあるだろうと思った。ひとつの見識。またはそういう時代があったかもしれない。

クエイ兄弟ーファントムミュージアム 渋谷区立松濤美術館 アニメーションに使用されたパペットがメインの展示。説明しにくいので、動画を見てもらった方が。独特の世界観に魅了される。彼らが影響を受けたというポーランドのポスターも面白かった。クエイ兄弟は一卵性双生児。兄弟とは違う、双子という存在が羨ましい。それなりに大変なこともあるとは思うけれど。

クエイ兄弟の数あるアニメーションのうちのひとつ。なんとなく感じがわかるかな。
片山正通的百科全集 東京オペラシティ アートギャラリー 片山正通さんのコレクションをずらっとならべた企画展。さすが、おもしろい作品が多い。私はどちらかというとモノから自由でいたいので、コレクション癖はまったくないんだけれど、人のコレクションを覗くのは面白い。コレクターには男性の方が多いような気がする、なにか理由があるのだろうか。

写真

ダヤニータ・シン インドの大きな家の美術館展 東京都写真美術館 :インド的な手工芸の技術を生かした家具のような小さな展示システム(と言っていいのかな?)ひとつひとつが、それぞれ小さな企画展なのだ。それらが、ホワイトキューブのなかにいくつも並べられていた。自分で展示をコントロールしたいから、と作家本人は語っていたけれど、それは要するに、写真は並べ方によって、いくつものコンテクストが生まれるということを示している。もともと文字で書かれた記事のための報道写真を取っていた作者ならではの視点なのかもしれない。インドという、ステレオタイプに理解されがちな国の真実を理解してもらおうという努力、それもまた報道的姿勢。写真一枚一枚というよりは、インスタレーションとしての面白さ、新鮮さ。
山崎博 計画と偶然 東京都写真美術館:閃きとか本能的な素早さのある写真ではないけれど、同じ構図で太陽を長時間露光し、水平線を取り続けた結果、その一本の線に、何か特別なものが生まれている。抽象絵画のような単純なストライプは、こちら側とあちら側、または宇宙と地球、その境界線のような群青色の水平線のまあい。絵画的な写真。
ソール・ライター Bunkamura ザ・ミュージアム:ドキュメンタリーの写真というよりは、形と色の写真。デザイン的なおもしろさ。Bunkamuraっぽいなと思った。

そのほか

ラスコー展 東京科学博物館 現在は保存のため入ることができないラスコー洞窟の内部を、最新技術で再現。2万年ほど前にラスコーを描いたクロマニヨン人を通して、人間の創造性について考えさせられた。2万年前の人類のおかげで、人間の創造性は本能なのだ、ということにあらためて確信を持てた気がした。もし、ユニバーサルインカムが導入されたら、人間はなにもしなくなってしまう、というのは嘘だと思う。なにかを作り、なにかをよくしようとし続けるはずだ。お金を目的にしなくなるだけで。

◼️2017ほかに行った企画展、美術イベントなど

そもそも何を見たんだっけ?と、リストを作りだしたら、案外面白かった。手間がかかるので来年はたぶんやらないけど。もしかしたらまだ漏れているものもあるかもしれない。常設の値段で見られるミニ企画展とギャラリーの企画展なども省略。本当は北関東にも良い美術展があるし、地方にも行きたい美術展はたくさんあるけど、あれも行きたい、これも行きたいと言いつつ、ほぼ都内と南関東をうろうろしているだけなのがよくわかる。

企画展 茶碗の宇宙 樂家一子相伝の芸術 東京近代美術館/ 山田正亮の絵画展 東京国立近代美術館熊谷守一 東京近代美術館 / 日本の家 1945年以降の建築と暮らし 東京近代美術館 / 春日大社 東京国立博物館茶の湯 東京国立博物館 / タイ〜仏の国の輝き 東京国立博物館 / 運慶 東京国立博物館 / 狩野元信 サントリー美術館 / 絵巻マニア列伝 サントリー美術館 / サンシャワー 東南アジアの現代美術展 森美術館 / N.S.ハルシャ展 森美術館 / 宇宙と芸術展 森美術館 / ダヤニータ・シン インドの大きな家の美術館展 写真美術館 / 山崎博 計画と偶然 写美 / 草間彌生 わが永遠の魂展 / ジャコメッティ国立新美術館 / 単色のリズム 韓国の抽象 / クラーナハ国立西洋美術館/ シャセリオー展 国立西洋美術館アルチンボルド国立西洋美術館バベルの塔東京都美術館 / ラスコー展 東京科学博物館 / 雪村 東京藝術大学美術館 / 岩佐又兵衛と源氏絵 出光美術館 / アドルフ・ヴェルフリ 東京ステーションギャラリー / マルク・シャガール 東京ステーションギャラリー / DOMANI展 新国立美術館クエイ兄弟ーファントムミュージアム 渋谷区立松濤美術館 / ゴールドマンコレクション これぞ暁斎 Bunkamura ザ・ミュージアム / ソール・ライター Bunkamura ザ・ミュージアム日本画の教科書 京都編 山種美術館 / 画と機 東京オペラシティ アートギャラリー / 片山正通的百科全集 東京オペラシティ アートギャラリー / 荒木経惟 写経老人A 東京オペラシティ アートギャラリー / エリザベス・ペイトン still life 原美術館荒木経惟 センチメンタルな旅 1971ー2017 東京都写真美術館日本民藝館 柳宗悦民藝運動の作家たち 日本民藝館そのほか アルテ・ピナコテーク/ノイエ・ピナコテーク/ピナコテーク・デア・モデルネ/レンバッハハウスミュージアム/ウィーン美術史美術館 /レオポルド美術館 /セセッション/アルテ・マイスター絵画館/プラハ国立美術館など イベント 横浜トリエンナーレ / 恵比寿映像祭 / メディア芸術祭 / 六本木アートナイトなど

アートについて書くのが好きだなあ。楽しい。 興味のない人にとっては、ぜんぜん楽しくないかもしれないけど。


最後に「人かたまって人になる」歌川国芳。どどーん。