元祖ミニマリスト?熊谷守一 『へたも絵のうち』読書メモ

へたも絵のうち (平凡社ライブラリー)日本経済新聞の「私の履歴書」といえば、お偉いさんの自伝が多い印象だけれど、時に芸術家や音楽家もよく書いていて、なかなか楽しい。

昨年末『熊谷守一いきる喜び』展を見て、熊谷守一の「私の履歴書」をまとめた「へたも絵のうち (平凡社ライブラリー)」を読みたくなった。

肉体労働も芸術も同じようにつとめ、身分の上も下もなく、お金も物も別にいらない、というほんとうに仙人のようなこの人の文章も半生も、なんだかとても痛快で風通しが良くて、気持ちがすっとするような気がした。とくに好きな箇所を下記に引用。

ずいぶん年をとったアイヌが二人、小舟をこいでいる情景を見たときは、ああいい風景だなとつくづく感心しました。背中をかがめて、ゆっくりゆっくり舟をこいでいる。世の中に神様というものがいるとすれば、あんな姿をしているのだな、と思って見とれたことでした。
「へたも絵のうち」熊谷守一 p.83

日露戦争の頃の話。画家として樺太調査団に同行しつつ、そっくりかえって威張っていただろう軍人への反感が見え隠れする。アイヌたちは、自分と自分の犬がその日食べる分の魚を捕ると、海岸に腰をおろして海をぼんやり眺めているだけなんだそうだ。そんな描写も眼に浮かぶようでうつくしい。

私は「自分を生かす自然な絵をかけばいい』と答えていました。下品な人は下品な絵をかきなさい、ばかな人はばかな絵をかきなさい、下手な人は下手な絵をかきなさい、とそういっていました。
「へたも絵のうち」熊谷守一 p.143

絵の話だけではなく、どう生きるかということにそっくり置き換えて読める。背伸びして、自分らしくない人生を送るより、不格好でもとろくても自分にとって自然な生き方がいい。

なんだか、ある意味すごく現代的で、時代を先取りしているような感じもして不思議な気持ちになった。シンプルで、お金を使わない暮らし。元祖ミニマリストですよね?食べる分だけ稼いだら(稼がないニート時代も挟みつつ)、がんとして自分のしたいことをする。

こういう人生はけっこう困難もあるなあと思いますが、それでも、本当に自分はこれなんだ、というものを探し当てることができたら、それは十分に生きる価値のある人生なんじゃないでしょうか。人間はお金を稼ぐために生まれてきたんじゃなくて、生きるためにお金を稼いでいるだけなんだから。

◼️へたも絵のうち (平凡社ライブラリー)

あと、熊谷は意外に機械に強くて、修理など軽々とやってしまったなんていうのも、なんだか面白かった。手先が器用というのもあっただろうけど、ものごとの仕組みとか、本質みたいなものに勘の働く人だったのかもしれない。

それにしても熊谷と日経の組み合わせってなんだか面白い。

企画展は、東京国立近代美術館にて3月21日まで。