真実と意志 ≪生誕100年 ユージン・スミス写真展≫

 カントリー・ドクター
≪ カントリー・ドクター ≫ An exhausted Dr. Ernest Ceriani holding a cup of coffee, still in scrubs. August, 1948. LIFE Magazine.

昨夜は月食も綺麗だったけれど、私はUFOも見てしまったみたい。大きな光が4つ、連隊を組んで音もなくすうーっと頭上を飛んでいった…。あれ?ドローン?とも思ったけれど、あの大きさだと近いはずなのに無音だったし…。今思い出しても幻のようです。宇宙人も、皆既月蝕を見に来たとか?そう考えると、なんだか楽しいですが。

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ユージン・スミスと日本

ユージン・スミスが日本と関わりの深い写真家だからかもしれない。会場となった美術館のフロアは、今まで見たことがないくらい混んでいて、静かな熱気が満ちていた。

実際この人の日本との縁は、なにか運命的なものを感じるほどだ。10代で日本人の写真家と出会って写真家を志し、沖縄戦に従軍して重傷を負い、日立を撮り、日系アメリカ人の妻とともに水俣病を取材した。チッソ工場では、会社に雇われた暴力団に暴行を受けて重傷を負い、失明までしている。それなのに「患者さんたちの怒りや苦しみ、そして悔しさを自分のものとして感じられるようになった」と言った*という。なんというか人間として凄みのある人だなあと思う。

ユージン・スミスの写真

いかにもマグナムの黄金期の人らしい写真だなあと思う。写真が世界と人間の真実を切り取ったものであった時代、人間の写真、ドキュメンタリーの写真であり、人間の力強さを信じる写真だ。彼の写真の中では、シュヴァイツァーも、町医者も同じように人間としての面差しを見せる。ヒーローとして撮らないということは、シュヴァイツァー自身の希望でもあったという。

彼はスペインの貧しい村で、ひとりの老婆(たしか)に「見たままの真実を撮って」くれるように頼まれる。それは、彼自身がやろうとしたことだったけれど、当時の政府が望まなかったことでもあった。

真実というものについて

ふいに、藤田嗣治が撮影した短編フィルムのことを思い出した。どこか田舎の村のような場所で子供達を撮影した他愛のないものだったが、政府は「貧しすぎる」と嫌った、ということだったと思う。政府に依頼されて撮ったけれど、使われなかった、みたいな話だったかもしれない。そのくらいうろ覚えなのだけれど、モノクロームの画面のなかで、子供たちは膝までの短い着物を着て遊んでいた、と思う。妹か弟を背中に背負った子供もいた。見たことのない過去の日本は、わたしの目にはむしろうつくしく見えた。

どこの政府も、組織も、家族みたいな小さなグループでさえも、都合の悪いことを隠そうとする、という意味では、ユージン・スミスが情熱を持って取り組んだチッソによる水俣病の惨事もそうだ。シルバープリントの艶やかな黒の中から、ねじれた腕が浮かび上がる。細い手が箸を握ろうとする。一方で、水俣の海で漁師が魚を取り、主婦がそれを持ち帰る。ユージンもまたその魚を食べただろう。壊してはいけない生活が壊された時、苦しむ人々の声は、いつもとても小さい。会社という組織の大きな力。福島原発の事故とも似ている。人間は同じことを繰り返しているのか。

写真は見たままの現実を写しとるものだと信じられているが、そうした私たちの信念につけ込んで写真は平気でウソをつくということに気づかねばならない*

ユージンが写真を単純には捉えていなかったことがわかる。彼は、自分が理解した世界を、自分が信じる真実を、自分の意志を焼き付けようとしていたのではないか。人々のか細い声をフィルムに写そうとし、彼が考える真実という武器で、大きな力に立ち向かおうとしたのかもしれない。

未来への意志

都合の悪いことを隠そうとする力と、真実を伝えようという力。過剰な力を持ってセクハラモンスター化してしまった男性たちと、今まで声のない弱者だったけれど、#metooムーブメントで、セクハラを暴く勇気を持った女性たちにも通じる構図かもしれない。

声のない弱者も大きくなればモンスター化する危険があることを、私たちは胸に刻んでおかないといけないと思うけれど、小さな個人の力や声がどんどん強くなっていくことは、とてもうれしいことだと思う。これは、インターネットのポジティブな力に他ならない。

W. Eugene Smith’s ‘Walk to Paradise Garden’初期の作品≪ 楽園への歩み/Walk into the Paradise Garden≫

手を取って光に向かって歩んでいく子供たちに、彼の夢を見るような気がする。

わたしたちもまた、「未来をどうしていくのか」という意志を持って進まなければと思うのです。

写真集 水俣

写真集 水俣

ユージン・スミス写真集

ユージン・スミス写真集

ユージン・スミス―水俣に捧げた写真家の1100日

ユージン・スミス―水俣に捧げた写真家の1100日

今日は東京は雪になりそう。引き続き、風邪などひかれませんよう、暖かくしてお過ごしください。

*「 ユージン・スミス 」(2018年2月1日 (木) 12:00)『ウィキペディア日本語版』より
※写真は企画展の作品とは異なるものもあります。