「タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる 」【今週の一冊】

夜の木 はじめてその本を手にとったのは今から何年前のことだろう。広々としたビルの一階から4階まで、ほとんどのフロアに気が遠くなるほどたくさんの本が並んでいる都内の巨大書店の一角で、その本は平積みにされたほかの本とは明らかに違っていて、まるでそこだけぺかっと光が当たっているみたいに見えた。大量生産された商品じゃなくて、手作りのアート作品だということがすぐにわかった。

手漉きの紙に、一枚一枚シルクスクリーンで刷られた美しい絵本をめくっていく。インドのある村の神話を描いたというその本は、日本語で刷ってあるのでちゃんと読むことができる。これだけの品質の、手作りのうつくしい本が3、4千円というのは、本としては高いんだけれど安いなあと思った。むしろすべてのページを一枚一枚額にいれて長い廊下にずらっと並べて飾って、毎日読んで暮らしたい。それくらいそれぞれのページが魅力的で、いままで手に取ったどんな絵本とも違っていた。

去年、板橋区美術館でも企画展が行われて大きな話題になったインドの小さな出版社タラ・ブックスの『夜の木』と、それから『水の生きもの』との出会いだった。

先日本屋さんをぶらぶらしていたら、「タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる 」をみつけて読んでみようと思った。

本はタラブックスができるまでの話、工房やそこで働く人々のこと。『夜の木』のアーティストが住む村の写真もうつくしい。そういえば、去年森美術館で見たN.S.ハルシャ展でも、インドの主婦たちが玄関の前の道の上に色粉を使ってうつくしい図案をするすると描いていて、魅了された。ほかにはタラブックスと日本の関わりなど。インドってカオスでもあるけれど、魔法の国のようだ。インドの小説もいくつか大好きなものがある。そのうち紹介してみたいな。

一番興味深かったのは、やはりあの本がどうやってできたのか、作られているのかというくだり。あまり内容はいえないけれど、『夜の木』は、ほんとうはオフセットの予定だったのが、ちょっとした偶然で手漉き紙とシルクスクリーンで手作りで作られるようになったらしい。まるでインドにたくさんいらっしゃる神様のいたずらのよう。それからあの独特の色彩や洗練されたタイポグラフィが、たくさんの人の手と、ゆっくりとした時間(数年〜数十年!)をかけて、まるでゆっくりと醸されるように出来上がっているものであること。

職人の暮らしのあたりは、職人さんたちは会社に感謝しているし満足しているのだけれど、それはインドという国のカーストの仕組みの中でのことで、それだけインドの身分制度が厳しいものであることが逆にほんのりとにおってきたりもする。でも、そうした仕組みが、インドの高水準のハンドメイドを支えていることも事実だ。ときおり「インドでしかできない」という言葉を聞く。うつくしい手織りの布や、手間を厭わない刺繍や染色、手作りのジュエリー。

一方で「本ってどうあるべきなんだろう」と、あらためて考えさせられた。創立パートナーのV.ギータさんは、シンガポールにある4階建の巨大な紀伊国屋書店に行った時に、3階分はジャンクだと思ったという。わたしも同じようなことを感じることがある。延々とうろうろしても、読みたい本が見つからない。子供の頃、本屋さんや図書館は魔法の王国だったのに。魔法はどこに行ったのだろう。

創立者のギータさんの言葉はひとつの答えかもしれない。

「誰もが内面に美しい宝物を持っている。それを引き出し、本のかたちにするのが、私たちの仕事だと思っています」
「タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる 」 p.81

◼️タラブックス インドのちいさな出版社、まっすぐに本をつくる

◼️水の生きもの

タラブックスの工房で手作りされた、シリアルナンバー入りのうつくしい絵本は大人のごほうびです。子供でもいいけれど。「夜の木」は欠品が多いのだけれど、こちらは河出書房が出しているのでわりと安定していつでも購入できます。アマゾンで検索したら売っていてびっくりしました。プレゼントにもぴったり。「夜の木」は、春頃刷りあがって日本に届くそうです。(にっこり)

マイお題というのを見つけたので、よく仕組みはわからないけれどとりあえず作ってみました。タグがわりに使えるのかな?誰でも使えるみたいなので、よろしければ使ってください。いつか小さなブッククラブみたいになったら楽しいな、なんて。
お題「今週の一冊」