ポーランド映画『裏面』

ここんとこ欧州映画をいろいろ見ました。といっても6、7本程度だけど、なかでいくつか面白かった映画があったので、メモしておきたい。

まず、ボリス・ランコシュ監督の2009年のポーランド映画『裏面』。これがすごく面白かった。

舞台は共産主義体制下、1952年のポーランドの首都ワルシャワ。30歳のサビナは、政府機関で詩の出版に関する仕事をしている。といっても共産主義のことなので、自由な創作ではなく、プロパガンダ作品が求められる不自由な時代だ。

彼女は祖母と母、画家の兄と暮らしていて、祖母と母は年頃の彼女を早く結婚させたくて仕方がないのだけれど、彼女自身はまだまだ恋を夢見る乙女。母が連れてくるお見合いの相手には見向きもしない。

そんなある日、帰宅中のサビナが知らない男たちに絡まれているところにハンサムな男性が現れ彼女を助けてくれた。彼女はその男性と交際を始めるが、彼はほんとうの名前も仕事も明かしてくれない。恋に夢中のサビナが気がつかないうちに、男はすこしづつ本性を表していく。

これ以上は言いたいけど言えない!でも、ブラックなユーモアたっぷりですごく面白かった。

旧体制から共産主義体制に大きな変化を強いられた当時、社会の支配層が力づくで入れ替わって、被支配者層の貧しく粗野な男たちは突然思いもかけない権力を握ってしまった。その一方で、支配者層にいた知識層の男たちは突然力を失い、今まで自分が支配していたはずの男たちにとり入るしかなかった。

社会の構造がくるりと裏返しになり、力を握った男たちが自分の力を持て余し、力を失った男たちがすこしでも力を得ようとおたおたしていたそばで、どちらにしても社会の主流になれない女の強さが際立つ。力から分断されているからこそ、女は、ただシンプルに人生を生き続ける力を失っていない。

画家の兄が見て気絶してしまった(そしてその後の人生、ずっとトラウマとなった)惨状のすぐ横で、サビナの母はいかにものんびりと編み物さえする。彼女はどんなことがあっても、娘を守るということだけを決然と心に決めていて、何があっても恐れない。

まあ、言っちゃうと陳腐かもしれないけれど、女の強さは、戦って支配しようとする男の強さとは違う、たぶん、今日笑って生きて命を繋いでいこうとする種類の強さなのだ。

でも、よく考えてみれば、男だろうと女だろうと人生は実はシンプルなのかもしれない。社会がひっくり返ったって、男も女も、今日もご飯を食べて生きていくのだから。

映画を見たあと、なぜかトランプ大統領の顔がちらついてしまった。たぶん、いつのまにか貧困層になってしまった元中流層の怒りが、トランプみたいな人を大統領にしたのだろうと思う。彼らは、どうして自分たちが貧しくなったのか理解できなくて、ただ怒っている。トランプ大統領の誕生は貧困層が起こしたちょっとした革命みたいなものなのかもしれない。

現代の女たちは、ちいさくひっくり返った社会で、サビナたちのように、男社会の価値観に飲み込まれずに生き伸びることができるんだろうか。でも考えてみれば、今まさに女たちがMeetoo運動の下に結託して、男性的な価値観を否定しようとしていているのかもしれない。そして、じつは旧来の男社会の価値観にうんざりしている男性もたくさんいる。

そういえば、映画の中でサビナの子が、やさしいゲイの男性なのもなにやら意味深にも見えてくる。女性でも、男性でもない、新しい中間的なセクシュアリティと新しい価値観。

良い映画ってそういうものだと思うけれど、この映画もすごく多面的で、いろんな角度から語ることができると思う。まあ、なにも語らなくたっていいんだけど。単純に面白くて笑える気持ちの良い映画なんだから。残念なのは、DVD入手困難で、今のところ見ること自体が難しいこと。もしも見る機会があったらぜひ。すごくおすすめです。

関係ないけど、ポーランドって、いまだに男性が女性にハンド・キス(男性が女性の手の甲にキスをする)をする国として有名なんですが、映画の中の現代のシーンでも、サビナがハンド・キスを受けるシーンがありましたね。いやあ、ポーランド男性、すごいなあ。

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大阪で地震の被害に遭われた方々が、早く安全なもとの生活に戻れますよう。心から、お祈りしています。