谷川俊太郎展に行ってきました

書く前にじぶんに釘を刺しておきたいのだけれど、今日は短く書く。私は、残念ながら韻文的というより散文的な人間なので、どうしても文章が長くなりがちなのだ。

韻文的なひとたちの言葉は短い。素朴で、野蛮で、ときに機嫌よく飛び跳ね、いきなり激しく怒り出す。わかりやすそうに見えて、詩の言葉ほどわかりにくいものはないと思う。言葉なんて元々わかりにくいし、伝えようと思っても伝わらなくてがっくりしたり、間違って伝わってしまったりするのだけれど。それにしても詩の言葉は、やっかいだ。白いというから白いのかと思ったら、赤い舌をペロリと出す、みたいな。それこそが魅力なのかもしれませんが。

まったくもって詩を書くひとと詩を読むひとの間に、「詩の言葉」を介してマジカルな感覚が共有されるのは驚くべきことだなあと思う。すぐれた詩にはマジックがある。すぐれた詩人には、そういうわけでなんだか「恐れ多い」みたいな感情を抱いている。

ああ、また前置きが長くなってしまった。オペラシティで開催中の谷川俊太郎展に行ってきたのです。たいへん恐れ多いので、まさかレビューなんか書かないと思っていたんだけど、でも書いてしまう。自分の頭と心の整理のためです。ファンの方、すみません、先にあやまっておきます。

美術館での詩人の企画展というと、数年前、東京近代美術館で開催された「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」が記憶に新しい。吉増さんは、ことばをばらばらに分解して、手触りと重みのある「存在」みたいなものにしてしまうアーティストのような気がするので(要するに見せるものがたくさんある)、美術館という空間で見せられることに違和感はまったくなかった。

いっぽう谷川俊太郎さんは、もっと軽々としている。だいたい、谷川さんはなにか苦しんでいるような感じがしない詩人だ。生まれ育ちも運もよく、外野から遠目に見ると結婚以外はあんまり苦労をしたこともなさそうだし(まあそれこそが大変な苦労かもしれないけど)、ふわふわと商業的な成功を収められている。ふつうに街を歩いていて、谷川さんのことばに出会うのもそう珍しいことではないような気がする。さらに原稿も最近はPCで書かれるというし、なんだかクリーンな感じである。

でも「文学館」ではなく「美術館」で行われる企画展がどういうものになるのかなあ?という期待半分、やじうま根性半分の気分で見に行った。

企画展の会場の入り口には幕のようなものがあって、それをくぐって中に入ると、「ことばあそびうた」の中の詩がスクリーンの映像と音に乗って語られる。谷川さんみずから「かっぱ」を朗読されている。音のおもしろさ、リズム感が楽しい。

ことばあそびうた (日本傑作絵本シリーズ)

ことばあそびうた (日本傑作絵本シリーズ)

言葉遊びを作った時の、設計図みたいなメモも展示されていた。ポリティカルコレクトネスにすっかり毒された今の感覚でみると、少々ひやりとする詩も。(「ばか」って大丈夫なの?)

次のスペースに進もうとすると、なかから鉄腕アトムの主題歌が聞こえてくる。この有名なアトムの歌の作詞も谷川さんなのだ。ぜんぜん知らなかった。会場には谷川さんが日常囲まれているだろうさまざまな事物や、撮影された写真などが、詩のことばとともにたくさんの大小の柱を中心に展示されている。ひとつの詩をはさんで、最後は谷川さんの「33の質問」を家族や親しい人に投げかけたヴィデオ。

谷川俊太郎の33の質問 (ちくま文庫)

谷川俊太郎の33の質問 (ちくま文庫)

感じたのは、谷川さんは、たぶん大昔から人間の心と喉から自然に出てくる「ことば」で人間を表現をしているひとなのだということ。ああ、ビビってるなわたしは。ええい、「ことば」という「からだ」、でどうだ。ことばは人間のからだの一部だ、ちがうかなあ。うまくいえないけれど、わたしはそんな風に感じる。ことばというからだを使ったダンス。

展示内容は、「谷川俊太郎は永遠の子供でもあるけど、オトナな部分もあるぜい」という感じだったけど、わたしが散文的な人間なせいか、言葉遊びや絵本のひらがなの谷川さん*1にもっとも親しんでいたせいか、会場を後にするときには、すこしこどもの気分だったかもしれない。でも、大人の顔をした作品であっても、谷川さんの詩には、どこか世の中に、大人たちに訓練されて「製品化」したおとなたちに、「こども」へ、「最初」へ、「まっさらのオリジナル」へ戻るよう促してくるようなところがあるような気もするのだ。Go Wild.

マザー・グース2 (講談社文庫)

マザー・グース2 (講談社文庫)

挿絵は和田誠さん

会場は、若い人でいっぱいだった。彼らも子供の時、谷川さんの言葉を読んで育ってきたのだろうか?考えてみれば、こども向けの作品は小さく目立たないようで強い*2。こどものころに読んで大好きだった絵本や童話は、大人になっても紙の手触りや匂いまで思い出せる。子供時代のしあわせな記憶に結ばれるしあわせなことばたちは、大人になっても心の中にひっそりとありつづける。

ていうか、結局長くなってしまった…。(まだ書きそうな勢いなので、ここでやめる)

東京オペラシティ・アート・ギャラリーで、会期は3/25まで。

では、きょうもことばを大切に、素敵な1日を!(そして明日は週末、Yey!)

かないくん (ほぼにちの絵本)

かないくん (ほぼにちの絵本)

松本大洋さんの絵もたまらなく良い。

注のようなもの
1:日本語の好きなところは、ひらがな、カタカナ、漢字それぞれに得も言われぬ表情があるところだ。谷川さんの作品はいろいろな言語に訳されているけれど、その文字の持つニュアンスはどうなるのだろう、と心配してみたりもする。
2:実は、最近児童向け作品最強説が自分の中でブームである。ノッポさんが、NHKの子供向け番組「できるかな」がなくなった後も、多くの大人から強い支持を集め愛され続けているのも、「できるかな」が子供むけの番組だったからだ。あれが大人向け番組だったら「あのひとはいま」の人な気がする。というか、誰も見ないか。子供はいつか大人になる。一方で、大人から大きな支持を得ても、それは一瞬だったりする。または子供は原初のままで、大人が忘れてわからなくなってしまったことをまだわかっているから、子供が支持するものはじつはすごいかもしれない、とも思う。子供向けの仕事よりも大人向けの仕事のほうが「えらい」みたいに思ってしまいがちだけれど、そろそろそれを改めたほうがいいかもしれない。

*画像参照:谷川俊太郎展・東京オペラシティアートギャラリー

アートというよりは、やはり本だろうな、と思ったので、一冊じゃないけど、お題「今週の一冊」。そして、お題「好きな作家」