仁和寺と御室派のみほとけ展 - 本当に1041本の手を持つツンデレ千手観音の微笑み

東京国立博物館で今週末まで開催中の「仁和寺と御室派のみほとけ」展に行ってきました。数多い秘仏や国宝のためか、なかなかの人出。最近混んでいる企画展が続いているなあ。888年に創建され、江戸時代に再建された仁和寺および御室派の紹介は、あちこちのサイトに詳しいので割愛。

ほとんどの方には今更でしょうが一応言っておくと、そんなもの仁和寺にいけば見られるんじゃないの?と思うのは大間違いです。ものによっては仁和寺に行けば見られるものもあるでしょうが、保存のためもあり、たぶんほかにもいろんな事情があり、お寺にいってもお宝がぞろぞろ見られるわけではありません。博物館や美術館、図書館なんかも一緒ですね。作品がたくさんあっても収蔵庫に入っていて全部見られるわけじゃない。また、東は仙台、西は福岡まで日本中に広がる御室派寺院に伝えられる多くの作品を見ることのできる貴重な機会です。

今回はやはり仏像が素晴らしかったのですが、書や工芸品、絵画も優れたものが多数出品されています。 ほんの一部ですが、心に残った作品を記録を兼ねて。

国宝 千手観音菩薩坐像

国宝 千手観音菩薩坐像 奈良時代・8世紀 大阪・葛井寺

今回の企画展では、なんといってもこの観音像がやはり圧巻でした。

ほとんどの千手観音像の手は実際千本もないのですが、この仏様はなんと1041本。救い放題や。ぐるりと一周して、背中からも、多くの手がどのように取り付けられているか詳細に観察することができます。

画像は、わじゃわじゃと生えている手!手に持っているものはすべて意味があるそうです。ドクロがメキシコ風(!?)でおもしろい!この髑髏にももちろん意味があります。

正面から見あげると線が細く、すこし冷たく見えるけれど、斜め、横からから見るとかすかな微笑みを浮かべていらっしゃるのがわかる。写真では正面のほぼ目の高さから撮影されているようですが、なかなかに大きな像なので、実際拝んだ人は下から見上げたでしょう。

対面で拝んだときはすこし冷たく見えたけれど、立ち去る時にふと振り返ったら、夢を見るように優しく微笑んでいた。なんて想像すると、すごいツンデレ。お好きな方には、たまらないものがあるのではないかと想像しますが(笑)、いかがでしょう。

ところで、すべての仏像がもちろん仏師の手作りなのですが、仏師それぞれの姿勢も才能も違うのは、現代の人間も変わらないところ。決まった「型」に従って制作をする仏像や仏画の場合、(仏像仏画以外の絵画も、ある程度そうですが)日々の仕事として、まさに「型通り」ただ淡々と制作をしていることが伝わってくるような仏像も多数あります。そして、そのなかには造形感覚がイマイチな仏師も当然います。

一方で、優れた造形感覚を持ち、型に従いながらも、型をはみ出て仏像に命を与える優れた仏師もいます。

優れた仏像からは、優れた仏師の真剣な工夫、イノベーションのようなものが伝わってきます。この観音像であれば、単純に言ってしまえば1041本の腕を破綻なく美しく配置し、設置する工夫や技術もそうでしょうし、仏の造形自体からも伝わってくるものがあります。仏師が、自分の心の中にいる「仏」に真剣に向かい合って創りだしたその造形に、時を超えて現代の私たちはたぶんうたれるのです。

とはいえ、下手だけれどなにかが伝わってくる仏像もあり、何百年たってもやはり作り手の姿みたいなものが、作ったものから伝わってくるのは面白いものだなと思います。

私が大学の講義を助けに仏像を見だした頃、そんなことはよくわかりませんでした。正直言って、仏様はみんな同じ顔に見えたし、むしろ現代美術ばりのおもしろい顔をした天平仏(すべての天平仏が変な顔ではありません。念のため)に惹かれたりしていたのです。歳をとるのは面白いものです。

歳をとると感受性が鈍くなるのではなく、経験が厚みを持って、感動するものが変わってくることについて書きました。

国宝:仁和寺阿弥陀如来坐像および脇侍(勢至菩薩立像、観音菩薩立像)

平安前期は最長・空海によって密教がもたらされた時期。仏像もガンダーラ仏や、たぶんもっとずっと遠くまで遡れば地中海の彫刻とのつながりをうっすらと想起させるような、彫りが深く筋肉質の体をもった密教仏像が数多く作られました。

平安後期に入ると大乗仏教、とくに浄土信仰が広がり、阿弥陀如来が作られるようになり、仏像の形も和風に変わっていきます。これはその最も古い阿弥陀如来の例。

静けさが波紋のようにあたりに広がるような、美しい微笑みが印象的でした。

国宝 十一面観音菩薩立像

国宝 十一面観音菩薩立像/平安時代・8~9世紀 大阪・道明寺蔵 わりと小ぶりな像ながら、とても流麗な観音菩薩。威厳のある女神のよう。体の線も観音菩薩なので女性的で、道明寺尼寺の本尊として尼さんたちが拝むのにふさわしいと思わせる美しい像でした。

ところで観音菩薩は人間ではないので本来無性ですが、中国でも日本でも女性形として表されるようです。慈悲を体現するからとか、インドの土着の女神が取り入れられたなどの説があるよう。

でも、やはり女性のイメージが強いですね。隠れキリシタンが、聖母マリアを観音像として拝んでいたという話も思い出します。

彦火火出見尊絵 狩野種泰筆

彦火火出見尊絵 狩野種泰筆 巻6 部分 /江戸時代・17世紀 福井・明通寺  山幸彦と海幸彦の神話に取材した色鮮やかな絵巻。竜宮城の話なので、まるでボッスの絵に出てくるようなマジカルな生き物たちが跋扈していて面白可愛い。ディテール写真がないのが残念です。

ちなみに山幸彦は神武天皇のおじいさん(笑)ということになっています。見ている方が、口々に「変な話だねえ」と言っているのがおかしかった。人間の集合的無意識みたいなものが表現されている神話って、おかしな話が多いですよね。

写真が見つからないのですが、神奈川県龍華寺の天平仏も柔らかく美形の仏様でした。ほかにも素晴らしい作品が多数。

また、レプリカではあるけれども非公開の観音堂内部を再現した空間はなかなか見事でした。 仁和寺観音堂の壁画(複製)の一部、モバイルです。 撮影可能ということもあって、みなさん熱心にモバイルを向けていました。インスタ映え、なんて言っているひともちらほら。

東京は雨。今日も寒いですが、創意工夫で楽しい1日を!

◼️ もっと知りたい仁和寺の歴史 (アート・ビギナーズ・コレクション)

◼️マンガでわかる仏像: 仏像の世界がますます好きになる!

この仏様は誰なのか?脇にいるのはなんの仏様なのか?意外と知らない仏様の知識がやさしく身につきます。東博ミュージアムショップでも手に入ります。(2018年3月時点)

*作品目録はこちら、*特設サイトはこちらから。

*画像参照:仁和寺と御室派のみほとけ展 および 東京国立博物館ブログ

お題「今週のアート」今週3回目?あれえ?